何か新商品のコピーのようなタイトルですが・・。
「裏内庭の灸」とは、食中毒による下痢を止める灸として鍼灸師なら知らない人はいないという程有名なものです。
知識としては知っていても、実際に使う機会はそうはありません。食中毒で鍼灸院に駆け込む人はなかなかいませんから、自分か家族が食中毒になった時に「試せるか?」というくらい。
その稀少な機会に遭遇いたしました。
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家族皆で同じものを食べたのに、高齢の母ひとりが食あたりになったようでした。食中毒のニュースなどで「お年寄りや小さい子供さんだけに症状が出た」と聞くけれど、その通りだなあと実感します。
夕ご飯にお刺身をいただいたその夜の脈がいつになく速く、聞けば「今日は昼間も暑くてしんどかった」らしく「薄着で昼寝をしていた」とのことだったので、冷えたのかもしれないと思い、ちょっと様子を見ることにしました。その夜から激しい下痢が始まったようです。
始めはまだ食中毒には思い至っていませんでした(他の家族が何ともなかったので)。一日安静に寝ておれば良くなるかもと思っていたけれど、一日経ってもおさまる気配がいっこう見えません。熱を測れば38度ほど。ようやく食中毒が頭をよぎりました。
満足に食べていない状態で糖尿のお薬を飲んでいては低血糖になる!と気付き、お薬の相談もするべく、かかりつけの内科に行くと「食中毒では?」との診断で、止瀉薬と解熱剤を2日分処方して頂きました。下痢の続く間は、糖尿のお薬は中止して下さいとの事でした。水曜の夜に発症し、木曜は様子見で、金曜にお医者さんからお薬をもらい、これでようやく治るかと思いました。
さて、土日を過ぎてもまったく治る気配がありません。水を飲んでも額に汗がにじむし、身体の中はまだまだ闘っているようです。糖尿の薬を中止し解熱剤にて熱が下がった結果、ふらつきはおさまり、しんどさは和らいだようだけれど、肝心の下痢がさっぱり止まりません。まるでミルク飲み人形のごとく、直結直行。その状態に誰より本人が倦んでいます。
さあ、お薬はなくなった、下痢は相変わらずだ、残された手段は?というわけで、冒頭の「裏内庭の灸」が登場するのです。
ファーストチョイスはお医者さんです。感染症などではないか?重篤な病気ではないか?まずは診断を仰ぎます。当然です。けれどお薬でも治らない今、頼れるものは鍼灸しかありません。「わらにでもすがる」心境になってようやく受け入れてもらえる熱いお灸。「裏内庭の灸」はしっかりと焼ききる、熱い熱いお灸なのでありました。
月曜の朝、母に灸の説明をして「裏内庭の灸」を受けてもらう事にしました。始めは熱くないのですが、熱さを感じるまでお灸をします。「熱くない」…「熱くない」…「熱い!」と、何十壮と続けてようやく熱さを感じたようなので、お灸を止めました。けれど、その日は結果は変わらずでした。まだまだ、熱が足りなかったようでした。
火曜の朝、再び「裏内庭の灸」です。今度は一度や二度「熱い」と感じただけでは止めませんでした。「熱くない」…「熱くない」…「熱い!」「熱くない」…「熱くない」…「熱くない」「熱い!」「熱い!」「熱くない」、と熱さを感じてもすぐにまた感じなくなったりするようです。かれこれ30分お灸を続けていますがなかなか熱くなりません。出勤時間も迫り内心焦ります。「熱くない」…「熱くない」…「熱い!」「熱い!」「熱い!」と、よしっ!
お灸の後、続けて数回トイレに行き、それから下痢はぴたりと止まったようです。本当にうそのように止まりました。「裏内庭の灸」によって排出する力を得、腸内の毒素を全て排出したのでしょう。
話にだけ聞いていた「裏内庭の灸」の凄みを、実際に目の当たりにする事が出来た貴重な体験でした。今度いつ使うか分かりませんけども。誰が見つけたか「裏内庭」。身体は不思議です。